税務・会計情報

消費税申告制度の疑問点

 確定申告の期間が終わり、3月決算に備える時期ですが、なぜか慌ただしい(振りをしている?)「税理士 中嶋昌啓」が、今回の担当です。

 今回は、「消費税申告制度の疑問点」と題して、「消費税の非課税売上制度、及び課税売上割合の制度」について、私見も交え記載いたします。

 既報のとおり、「平成25年度税制改正(案)」は平成25年3月29日に国会で成立し3月30日に公布されましたので、改めて「平成25年度税制改正大綱」の内容を確認したところ、「財務省」のHPの「税制改正の大綱」には記載されていないのですが、平成25年1月29日の閣議決定の元となる、平成25年1月24日付での与党(自由民主党、公明党)が作成した「平成25 年度税制改正大綱」に、「第三 検討事項」として、15項目が記載されており、その中に次の事項がありました。
 
「医療に係る税制のあり方については、消費税率が10%に引き上げられることが予定される中、医療機関の仕入れ税額の負担及び患者等の負担に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ適切な措置を講ずることができるよう、医療保険制度における手当のあり方の検討等と併せて、医療関係者、保険者等の意見も踏まえ、総合的に検討し、結論を得る。」

 上記の「医療機関の仕入れ税額の負担・・・に十分に配慮し」が、今回のテーマの「消費税の非課税制度、及び課税売上割合の制度」に関係してきます。(他の要素もあるかもしれませんが・・・?)。

1 消費税の非課税制度

 現行の消費税法では、「医療費等(公的な医療保障制度に係るもの…国保、社保等)」、「住宅の貸付け」等が、「社会政策的な配慮に基づくもの」として消費税を課さない非課税取引とされています。

 このような非課税制度は、消費者にとってはありがたいことですが、このことにより消費者が負担しなくてよくなった消費税額分は、『国の収入が減るのではなく』、『事業者が負担している』ということを、ご存知でしょうか?

 本来の消費税は、消費者が負担し、事業者等を通して国等に納められます。
 ( 消費者 ⇒ 事業者等(預り消費税-支払消費税) ⇒ 国等 )
 
 事業者等は、売上等で預かった消費税額(売上税額)から原価、販管費等で支払った消費税額(仕入れ税額・・・上記、大綱の検討事項の文言)を差し引いた金額を申告し納税しています。
 
2 課税売上割合(「課税売上/課税売上+非課税売上」・・・今回は、免税売上は除いて説明します。)

  しかし、上記の「売上税額-仕入れ税額=納税金額」は、課税売上割合が100%の場合であり単純ですが、「課税売上割合が100%未満の時」は、原則として次のようになります。

  「売上税額-仕入れ税額×課税売上割合=納税金額」
  
 したがって、「課税売上割合が100%未満の時」は、預かった消費税の全額に対して、支払った消費税は全額を控除できない(非課税の割合による仕入れ税額分)ため、非課税売上による国等の消費税収入(歳入)の減額を事業主が負担していることになります。


【医療機関の具体例・・・計算式等は、単純な形に略してあります。】
 課税売上(保険外収入) 1,000万円(預かった消費税50万円)
 非課税売上(保険収入(本人負担を含む)) 9,000万円
 課税仕入(医薬品等の原価、消耗品等の販管費ほか) 6,000万円(支払った消費税300万円)

 課税売上割合    1,000万円/1,000万円+9,000万円 = 10%
 消費税の納付税額  50万円-300万円×10% = 20万円

 この事業者は、実際は「預かった消費税50万円」に対し、「支払った消費税が300万円」と支払った消費税額の方が多いため、単純計算では「50万円-300万円 = 250万円」と、250万円の還付になるところが、仕入れ税額は課税売上割合の10%しか認められないため、20万円を逆に納めることとなり、課税売上割合(しいては非課税売上)が制度になっているために、270万円を負担していることになります。

 医療機関を例に記載しましたが、このことは非課税売上高が多い住宅貸付業(アパート等の賃貸)、不動産業(土地の販売)なども同様になります。
 
 また、従来の「課税売上割合が95%以上の場合は、仕入れ税額の全額を控除できる」という、いわゆる「95%ルール」が改正され、平成24年4月1日以後に開始する課税期間の課税売上高が5億円を超える場合には、課税売上割合対応分しか仕入れ税額の控除ができなくなりました。

 最後に私見ですが、課税売上割合による仕入れ税額の控除は、消費税全体の枠組みの中の一つであり、また諸外国でも課税売上割合の考えはあるようですが、非課税売上による歳入減額分を事業者等に負担させるという現行の税制には「疑問」を感じています。
 
 また、このことは医療機関だけの問題ではないため、不公平税制と言われない制度にしてほしいと税理士として願っています。

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