税務・会計情報

残業代ゼロは少子化に拍車

「残業代ゼロ」の波紋が広がっています。

 安倍政権の成長戦略の目玉として、また労働者保護のための岩盤規制を打破する改革メッセ-ジとして、経済界の期待のもとに打ち出されたのが「ホワイトカラ-エグゼンプション」と呼ばれる「残業代ゼロ」制度の新設です。1月16日に厚生労働省が発表した骨子は「年収1,075万円以上」を対象に残業代を支払わないというものです。この制度をめぐっては、少子化と人口減の原因は、あまりに安い劣悪な雇用環境が労働市場の規制緩和で広がったこと、有給も取らずに長時間サ-ビス残業も一般化していることにある。残業代ゼロは決定打となると直感しました。
 昨年の人口減は26万8千人に及び、2009年から始まった減少人口の累計は112万人になりました。一方で、出生数も下がり続けて100万人の大台を割る直前まで近づいてきました。安倍政権も人口減少に危機感を持って「地方創生」や「女性活躍」などを看板にしようとしているのだと思います。
 私が注目するのは、「団塊の世代」の子供たちである「団塊ジュニア」(1970年代前半生まれ)の世代です。この世代が20代後半から30代前半になる間に出生数は上昇しませんでした。妊娠、出産の可能な世代が人口としては増えたにもかかわらず、子供の数が増えなかったのはなぜでしょう。
 この時期は、労働市場の規制緩和による不安定雇用が増え、賃金は下がり続け、「ワ-キングプア」と呼ばれる「新たな貧困」が社会問題化した時期にあります。
 90年代後半から「派遣労働」などの非正規雇用が激増しました。そのなかには、中高年の労働者だけでなく若年層も多く存在しています。派遣労働者は、寮などの家賃や光熱費を給料から天引きされて、日々の食費や最低限の買い物をすると、ほとんど残金はありません。「結婚」「子育て」は、彼らにとっては辿り着くことが難しい世界の話なのです。
 また、正社員であっても「就職氷河期」に労働条件は厳しくなり、サ-ビス残業や長時間労働はあたり前のブラック企業が増えてます。過酷な労働条件の中で起きる「過労死」や「精神疾患」も高止まりを続けています。
 人口減少と少子化の進行は、「非正規雇用による格差社会」と「ブラック企業の増加と長時間労働の常態化」に原因がある、と私は考えます。したがって、出産や子育てがしやすい社会にするには、「格差解消」と「人権を尊重される労働条件の回復」を徹底する以外にはありません。しかし現在、国会で審議されている「労働者派遣法」改正は、すでに2千万人を数える非正規雇用を拡大して、格差をさらに広げていくことにつながる懸念があります。
 そうした状況で打ち出された「残業代ゼロ」は、成果主義の名のもとに賃金カットと長時間労働を固定化することにつながり、さらに出生数を押し下げる恐れがあります。いま、目指すは「残業代ゼロ」ではなく、「残業ゼロ」の労働環境ではないでしょうか。
 今回の「残業ゼロ」は収入1,075万円以上が対象だから、一般への影響は少ないと考えている人もいるようですが、それは間違っています。政治家や官僚には「小さく産んで大きく育てる」という習性があります。まずは抵抗の小さいところから道を開き、次第にその対象を広げていくという意味です。「残業代ゼロ」もまた、対象が年収800万円、600万円、400万円と次第に下げていくことは十分に想定できるところです。
 私が格差解消のために必要だと考えるのは、まず「非正規労働」の低すぎる賃金を底上げすることですが、目先の利益しか考えない経済界にとっては、「正社員の賃金を非正規社員に近づける」ということになるでしょう。こうした考えはブラック企業の合法化にもつながり、社会は荒廃していくでしょう。
 しかも、政府と日銀が一体となって「物価上昇」を仕掛けている時期です。消費税のアップで消費は冷え込んだまま、回復してません。非正規労働者の格差解消と賃金の底上げこそ必要です。
 経済界の言いなりの「残業代ゼロ」制度は、「少子化」にさらに拍車をかけることにつながらないのか。今国会の議論を見守りたいと思います。

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