税務・会計情報

メ-ルで「退職します」これで足りるか?

 最近は、労働者が退職する際に、メ-ルやLINEで「退職します」と送ってくることがあります。この「退職します」というメ-ルで、退職の意思表示ありとみてよいでしょうか。
また、会社からの退職勧奨に対して、労働者が「退職でお願いします」とメ-ルを送ってきたら、これを会社からの退職打診に対する労働者の合意とみてよいでしょうか。
 口頭でのやり取りとは異なり、メ-ルという形で文字として残っていれば、退職したい旨、退職する合意する旨の意思表示は明確であり、これで足りるようにも思います。
 今回は、会社からの退職打診に対して、「会社から提示された条件のもとに自己都合」しますとのメ-ルを労働者が送っていたにもかかわらず、このメ-ルでは、雇用契約を終了させる合意とみることができないと判断された判例(アクアクララ事件・大阪地裁)をご紹介します。
 この事案は、労働者が遠方への異動には応じられないとして「会社から提示された条件のもとに、自己都合にて退職させていただきたいと思います」とメ-ルを送ったケ-スでした。 
 会社の退職打診に対して、労働者が自己都合退職の形で応じたようにも見えます。
 しかし、裁判所はこれを当事者間の雇用契約を終了させる拘束力を有する合意とは評価しないと判断しました。
 労働者が送ったメ-ルは、会社が提示した異動・退職の「2つの選択肢のうち自己都合退職を選択するということを表明したものにすぎず」具体的な退職条件が未定であったことを裁判所は評価しました。
 また、裁判所は退職日の合意がなかったことを重要視しています。会社からの退職打診においても、労働者からのメ-ルにも退職日の特定がなされておらず、結局、その後も退職日の合意が得られることはありませんでした。そのため、裁判所は、退職日も明確になっていない当該メ-ルだけでは、雇用契約を終了させる合意とは評価できないと判断したのです。
 裁判所は、会社の退職手続きの不備も指摘しています。この会社の就業規則には、「従業員が自己都合により退職しようとする場合は、少なくとも30日前までに所属長を経て退職願を提出し、会社の承認を得なければならない」との規定がありました。就業規則に定める自己都合退職の手続きが取られていないことも指摘しています。要するに争いが生じている以上、このメ-ルだけでは足りず、退職願を提出し、会社が承認するという手続きを取るべきであったということです。
 メ-ルで「退職します」と送られてきたら会社も安心してしまうものですが、その後の退職条件(退職金等)で紛争が生じ、退職日も決めていなければ、この事案のように退職の合意自体が争われる可能性は十分あります。もちろん初めに「退職します」という連絡があり、その後に労働者と話し合って退職日を決めることもありますが、その場合でも早急に話をして退職日を特定すべきです。
 結局、退職日を特定した退職届をもらい、これに会社が退職受理の証明書を出す、または労働者と退職合意書を取り交わす、この基本はいくらメ-ル等でやりとりが便利になったとしても怠るべきではありません。基本に立ち返り、今一度、就業規則等の見直しをされることをおすすめします。

 就業規則等の規程集についてご不明な点ありましたら、お気軽にご相談ください。
  

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